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14. 堀江さんの河馬


「カバ、好きだったかも」と記憶を塗り替える前の私には、
カバといえば、堀江敏幸さんでした。

作品集『おぱらばん』(1998年)を読んだ25歳の頃、作者と同時代に生まれた幸せを思い、
この人の本はぜんぶ読むんだと心に決めて、以来、25歳の誓いをクリアしています。

堀江さんがカバにひとかたならぬ愛を寄せているのは、読者ならよく知ること。
 
「留守番電話の詩人」(『おぱらばん』所収)と「裏声で歌え、河馬よ」(『回送電車』)は
ズバリかばをめぐる話ですし、「キリンの首に櫛を当てる」(『バン・マリーへの手紙』)は
キリンが主役ながら、外国でも動物園に行くようになって、という流れで以下に続きます。
 
(…)どこへいっても、私の目は、子ども時代とおなじように、河馬とキリンを探していたのである。
 河馬については、(…)少々学術的な一文を草したことがあるし、その河馬にちなんだ古い絵はがきを蒐集していたこともある。
 

堀江さんはいつでもつねに「河馬」と神々しく漢字を用います〔*註〕
麒麟とは記されないキリンを憐憫(れんびん)の目で見るのは、
カバ目線の優越感、あるいはカバへのひいき目というものでしょうか。


ただ、いくら堀江さんが愛するからといって、
かつての私がカバまで好きになることはありませんでした。

ああ、浅はかだった若い自分に教えてやりたい。 
堀江さんを読むときの脳波をとれば、カバ時間と同じ波長が現れるということを。
 
カバ時間、お忘れですか? それは鏡面のような心が訪れる奇跡の時。(5.

個人差はあるでしょうが、私の場合、〈堀江敏幸時間〉=〈カバ時間〉なのです。
この頃になってやっとそれに気づきました。

でも私が潜在的カバ派であったことは、あながち嘘とも言えません。
だって、堀江さんがキリンも好きだったなんて、まるで覚えてなかったし……。
 
 
  
「かばの本」に、堀江敏幸さんの寄稿が実現しました!
私の感涙の程を想像してほしいものです。

ヒポミさんとはまたちがった河馬への深い思いを秘蔵の絵はがきとともに味わうとき、
あなたにも〈河馬時間〉が訪れるかもしれませんよ〜。お楽しみに!
 
 
ところで、中ほどの引用文中の下線部、
《古い絵はがき》のことは「留守番電話の詩人」に書かれています。
じゃあ《少々学術的な一文》とは?
 
じつはこの《一文》のおかげで、辺見じゅんは「河馬の叡智」を歌うことになりました(3.)。
秘密を明かすのは、まずはこれくらいにしておきましょう。


*〔表記について〕 日本語には「かば」「カバ」「河馬」と三通りの選択肢があります。ヒポミさんが最もしっくりくるのは「かば」だといいます。ただし平仮名が並ぶと目立ちにくいという難点があり。よって本でも前後の文脈によって平仮名と片仮名を使い分けることにしました。もっとも、本の中の堀江さんの文章は、もちろん「河馬」一色です!


カードスタンド2.jpg
カードスタンド1.jpg




カバのカードスタンド 

神保町すずらん通りの文房堂には、たまにカバがいる。
毎度「カバはいませんか」と訊ねるA子のために、
もっと仕入れてくれないかな。
「本は装いです」のしおりは、
三省堂本店のレジ横にあった、紙の専門社〈竹尾〉製。
いえいえ、中味も大事です。

13. road to かば祭り(その二)


本の成り立ちにも触れてないのに、かば祭りの宣伝かよ、と前回思われた向きに言い訳です。

じつは自分でも、おかしいなと思っていました。
かば祭りの流れで持っていきたかった本来の思惑(おもわく)をすっかり失念してたのです。
ご主人のヒポオさん(仮名)のお顔が浮かんで、つい気をとられてしまいました。
hippo は hippo でも海馬の働きが弱いようで……。

さて、かば祭りという楽しげな響きに隠れていますが、
その実質は〈ヒポミのかばコレクション展〉。つまり展覧会です。
さすがそれを10回も重ねているだけあって、ヒポミさんが最も心を砕くのは、
カバたちをどう見せたらお客さんが喜んでくれるか、だといいます。

コレクションの数は2011年3月時点で5000点超。

 5000、、、

音楽マニアのCD5000枚とはワケが違います。
CDショップで買って、家の棚にびっしりすっきりー、なんてことはないのですから。

かばグッズ5000点がどのくらい大変な数かというと、
銀行で五千円札を全部1円玉にくずしてもらったとします。
その一つひとつが、大小とりまぜた別の姿のカバになっているとしたら。
……想像を拒否するものがありますね。

しかも、前にもちょっと触れましたが、
カバというのは動物キャラの中でのヒエラルキーが下層の部類、としか思えないほど、
そうしょっちゅうはめぐりあえません。そのなかにあっての、1円玉5000個です。

こぼれ話〕プレゼント魔だった生前の辺見のお遣いで、ネクタイを求めに伊勢丹men's館へ。そこで、私がこれまで見つけた全15点のカバのうちの一つに出逢いました。フェラガモ! 黄緑の地の色も柄も、奇抜といえば奇抜です。自腹ならば買いません。自分の男には買いません。しかし贈る先とは私、面識がないのであります。つまりもらう方のキャラに頓着する必要がない。で、即決。そして本心かどうかは知ったこっちゃありませんが、とっても喜んでくれたとのこと。贈った辺見、お遣いの私、もらった謎の人。みんなが満足、大団円なのでありました。

ヒポミさんが凄いのは、まず、そのすべてをナンバリングしてデータベース化していること。
私にも最初、データ上でおおよそのコレクション構成を示してくれました。
なじみ深い分野で言えば、図書館の司書の手腕でしょうか。
それらを、いわゆる物(ブツ)撮りのみならず、カバが映える写真にしてサイトにアップしているのです。

さらに凄いのが、当然5000点もあればヒポミさんの思い入れにも強弱は生まれるわけですが、
展示の際にはそういった私情はいっさい挟まないということ。
かば祭りはコレクションの披露の場ではなく、お客に求められているものを提供する機会だというのです。
これぞ祭りのプロ。

どんな本を作ろうかと相談しているとき、ヒポミさんがいみじくも言いました。
「かば祭りを開く過程と似ていますね」
そうなんです。ヒポミさん、本づくりは初めてでも、ターゲットを想定し、
キャパと動線を考慮しながら内容を固めていく作業は、お手の物だったのです。
打ち合わせのあと、ヒポミさんからメールをもらいました。

サイトやかば祭りを見て楽しんでくださるのと同じように、
思わず笑っちゃうような、知的で、エレガントで、ユーモアにあふれている本、
それがヒポミに期待されるカバの本ではないだろうかと考えました。


それまでコレクターというと、自己満足を追求している人、ってな印象がありました。
しかし、このヒポミさんの思いは、反対に、なんと客観的で、利他的であることでしょう。

思うに、趣味が高じてコレクションとなり、その充実の度が高まった時、
人は、なんらかの使命を帯びるのではないでしょうか。
たとえば本格的なコレクターがやがて美術館をもつのは、
死、という人間の運命に対する「責任」が芽生えるためだと思われます。

これは英国に言うノーブリス・オブリージュ!
面倒なので説明しませんが、持てる者の宿命です。

前回、到達しなかった結論はここです。
かばの本は、よって、ヒポミさんの献身による、紙上かば祭りとなるのです。

本がふつうのかば祭りと違うとすれば、
二次元での展示になる分、テキストが補足するという点。
見て楽しい、読んで楽しいそれぞれのカバの来歴やウンチクはもちろん、
全点にコレクションNo.を付すので、コレクションの経過を想像するのも楽しいですよ〜

また期間限定の展覧会とは違って、いつでもどこでも、本を開けばカバ時間。

さらに! 人が死んでも本は残ります。
もしかしたらまだ見ぬ孫、ひ孫もカバと出逢ってくれるかもしれませんね。いい仕事だ。



13.キンダーサプライズ.jpg


ヒポミさんにもらったドイツの卵形チョコ 
……の中の黄色いカプセルの中の、カバ 

クリスマスはおろか、バレンタインデーやハロウィンなど、
なぜ日本で?とやや呆れ顔にもなる行事が根付いてしまうこの国にも、
キリスト教圏ではクリスマスに次ぐイヴェントであるイースターは、
まだ影が薄いですね。とにかく卵が溢れる期間です。

このチョコはシーズン限定ではないようですが、
おまけのカバはヴァリエーションがいっぱいある人気シリーズ。
ビックリマンチョコと同じ運命でも、致し方なし!

12. road to かば祭り


ヒポミさんは、四年に一回のオリンピックイヤーに「かば祭り」を開催しています。
そしてロンドン五輪の今年、〈かば祭り2012〉は「かばの本」刊行記念!


11月22日(木)〜27日(火) 12.00-19.00pm
会場:Gallery AB-OVO(ギャラリー・アブ・オウヴォ)
世田谷区北沢3-21-4 B1(下北沢駅から徒歩5分)

10月下旬の刊行を予告しておきながら着地点が未だ見えていない綱渡り進行ですが、
本に掲載されるカバの実物が見られるこの機会、お見逃しなく!

さて、ヒポミさんとカバグッズの出会いは1980年。
かつてはヒポミさんもカバをたくさん飾っていたそうです。

転機はコレクションが四ケタを超えた頃の、かば祭り。
偶然現れた カエル コレクターの導きでデータベース化をはじめ、
2001年からは、現在の形のようにホームページ上でコレクションを紹介するように。(8.

そして、長寿日本一の〈デカ〉誕生日を祝す石川県能美市いしかわ動物園(2007年)、
来日100年記念の上野動物園(2011年)など、出張かば祭りを依頼されるほど、
カバのオーソリティーとなっていったのです。

本ではコレクションの詳しい歩みも一望できるので、お楽しみに!
(年表とか国語便覧とかってなんか好きです〜)


というわけで、表には一切出ていないコレクションはきちんと収納されていました。
それら5000点に及ぶ実にさまっざまなカバを見せてもらっているうち、
初めての訪問にもかかわらず、すっかり長居してしまっています。

そこへ、ダンナ様のご帰宅。

そのお姿を見た瞬間、挨拶も忘れて「ほ〜」と唸ってしまいました。
「主人を見るとみんな、ああ〜と納得するんですよ(笑)」

ヒポミさんのご主人様、なんとカバそっくりなのです!
太ってるのではなくガタイがよく、何よりお顔がいかにも「気は優しくて力持ち」という感じ。
 
腑に落ちるとはこのことなのでした。

TSdesignAcrylicZoo.jpg

スタイリッシュすぎるガチャガチャ 
TSdesign Acrylic Zoo 

持ち主のお気に入りとのことで、
くれはしませんでしが撮影用に貸し出し。
これを手放したくない気持ち、
A子にはわかるよ。

11. 笑顔について


ヒポミさんの笑顔が美しい、と記したのをご記憶でしょうか。

中学時代に流行った尾崎豊が「 ♪ 俺はうまく笑えているかい?」と歌うのを聴いてドキッとした、
などと告白するのは顔から火が出そうですが事実です。
 
心から笑っているのに、どうして顔がついてこないのか。

いまだに続くこの違和を感じるたび、自分に足りてない何かを思い知らされるし、
こちらのぎこちなさにひきずられることなく屈託なく笑う人には、ホッとしてしまいます。

うーん、笑顔ってなんなのでしょう。

西欧人は赤の他人と目が合ったとき、ニコッとしますね。
たまに彼らのオープンマインド度あるいはナンパと勘違いする人がいますが、
あれは戦いの歴史が生んだ「自分は敵じゃないよ」のサイン。だから目は笑ってません。

ところで、ヒポミさん初訪問時に、なぜカバなのかを問うたところ、
「よく訊かれるんですけれど……優しくなりたいのかもしれない」。
そう言うヒポミさんはどうみてもエレガントな優しさに溢れているので、「え?」と問い返すと、
「というか強くなりたいのかもしれない。強くあるためには、優しくなければいけないでしょう?」

私はなんだかじーんときました。優しいから強くなれる……。

「カバにはそれを感じませんか? 気は優しくて力持ち。
 どんなにカバのグッズを集めても、いちばん好きなのは、だから本物のカバなんです

震災直後のこの言葉。ヒポ教へ改宗の瞬間でした。

もしかして、ヒポミさんが言ったのは、強さと優しさが逆だったかも知れないと今、不安になるものの、
たぶん、どちらも同じこと。ヒポミさんは強く優しいので、もっと優しく強くなりたいと言うのです。
強さと優しさの深さが、笑顔に現れるのです。


昨2011年11月、亡き辺見(3.)のお別れ会に、ヒポミさんが来てくれました。

生前の辺見にヒポミさんを会わすことはできなかったのですが、ヒポミさんが「同じ柄を二つ持っているから辺見さんに」と、NATSUKOさん作の(がま口ならぬ)カバグチをくれたことがあります。
辺見が会社に来るのは月に数回。眺めてるうちに欲しくなって、自分の分をNATSUKOさんから取り寄せていたのですが、やってきた辺見にカバの口を開けて中の鳥を見せたところ「きゃー♡ もったいなくてお金なんか入れられないわーん」。さらに「この感激を誰かと分かち合いたい!」と、私のカバグチまで持って行ってしまったのです。以来、「新しいカバはないの?」という毎度の催促に用心深くなり、「これはあげませんけれど!」と前おきすることもありました。

お別れ会でのヒポミさんの笑顔は、優しすぎて力強くて、
こんなに早く死んじゃうなら全部あげればよかった、と私の涙を誘うのです。

私の中でカバと辺見は切っても切り離せず、湿っぽくなってしまいました。
今日は辺見の一周忌。ご容赦くださると、ありがたいです。

 
 


名刺入れOZIO.jpg
函館ブランドOZIOの名刺入れ 

完全なヒポミさん影響下での初カバがこれ。
黒いプレーンの革と思いきや開けるとピンク地、カバが河をゆく。
以来、名刺交換が快感です。少々かまって気味ににぐいっと開くと、
かまい慣れた手だれさんは「おや?」と反応してくれるのです(ただし100%女)。
これってもしや裏地派の清原・長渕モード? 自分にもそのケがあったとは。
わが人生でこれに匹敵する買物……ちょっと思いあたりません。


10. 閑話(ヒポ違い)


この拙文、想像以上の読者を得て多数の反響を頂いております。ありがたいことです。
なかでも多い意見が、「私もカバ、好きだったかも」。

そう思わせるカバもすごいのですが、だいたいが人の気持ちほど不確かなものはありません。
私なぞ、酒は体質に合わないと信じて「飲めないんです」と言いながら、
眼の前にあるのでつい口をつけているうちにけっこう飲んでしまいます。
こうなると嘘つきのようなので、この際、(本来飲めない人間がなるという)
アル中にでもなって死にたいものだと思うものの、そこまで飲みたおすことも今のところできてません。


さて今回はまた脱線して、カバの語源について、少し触れることにしましょう。

英語の「hippopotamus」は語感の楽しさとあいまってよく知られる言葉(発音はヒポポートァマスって感じ)

ギリシャ語の成り立ちは「hippo(馬)」+「potamos(河)」で、
中国語がこれを原義的に訳して「河馬」となり、その訓読みが「かば」。
これ、カバのプロのあいだでは常識の部類です。

日本随一のカバ通・宮嶋康彦氏(6.)によれば、日本の文献への初登場は、1862年(文久2年)。
遣欧使節の普請役・益頭駿次郎がロンドン動物園でカバを見て「海馬」と記録したとか。
姿カタチからの想像だとしたら、なかなかイイ線いってますね。いななきも馬に似ているといいます。

海馬といえば、記憶を司るという脳の海馬。
海馬はもともと、ギリシャ神話でポセイドンが牽いた馬の海獣「hippocampus」のこと。
ヒポカンパスはしっぽが魚の尾ひれになっている馬=半馬半魚で、タツノオトシゴの学名でもあります。
で、脳の海馬の断面がタツノオトシゴに似ていたことから、つけられたそうです。

カバは脳みそが異様に小さくてシワもほとんどないことから、バカだという輩(やから)がいます。
カバ園長(6.)はこの説に大いに憤慨してました。
脳の海馬と我らが河馬は、語源的にもヒポ仲間なのですから、カバ=バカという記憶には、どうぞ今後ご注意を。
さらに医学の祖ヒポクラテスのヒポも同源なので、どうぞ今後ごひいきに。


一方、けっして混同してはいけないのが、もう一つのヒポの一群です。

  ヒポクラシー/ヒポクリット(偽善/偽善者)
  ヒポコンデリー(心気症・憂鬱症)
  ヒポテンシヴ(低血圧)
  ヒポタラマス(視床下部)

これらは、同じヒポでも川のhippoと違って「下」の意の hypo一族。医学用語によく使われます。

hippo と hypo  
字面だけでも違いが歴然。hippoの何と愛らしいことか。
誰が行司であろうと、完全に hippo に軍配を上げることでしょう。

実は、ヒポミさんと本のタイトルを考えているとき、
「デモクラシー」のノリで「ヒポクラシー」案が出たのです。
もちろんこちらは「hippo暮らし」のつもりでも、音では「hypocricy=偽善」になってしまう。
こりゃまずいというわけで、勉強した成果の、お裾分けでした。
シソの中のカバ.jpg



シソ中カバ小.jpg

 シソをたくさんもらいました。

「そうだ、A福町の駅で捕獲した2cmの河馬に、
 生まれ故郷を思い出させてやろうっと〜」

 もともとガーデン・チャーム、緑が似合います。
 思惑通りの絵は撮れませんでしたが、なんか、うれシソう。

 
 ところでカバの置物の背中には、よく小鳥を見かけます。
 これはアフリカでもよく見られる光景だそうですよ。

9. 初訪問(その二)


私は生まれてからこの方、一所(ひとところ)に五年と住んだことがありません。

親元にいる間は、父の転勤のたびに、母が引っ越しのすべてを処理しました。
すべてとは、子供三人の服から机の中身に至るまですべての、荷造りから荷解きまで。
こちらは身ひとつで飛行機に乗れば、数日後にはまた同じ生活が始まります。

どうやらおかしいと気づいたのは、やっと思春期の頃。
とはいえ、親任せにしていることではなく、自分の荷物の量についてです。

「小遣いはたいた『わたしは真悟』(楳図かずお)はどこ?!?!??!」

私の持ち物は、母の選択眼により、転居ごとにコンパクトになっていたのです。
 
それを知った当時は母を罵るという愚挙に及びましたが、
今となっては、あんな気持ち悪いものが本棚の奥になくてよかったとも思えるし、
あったらあったで読み返すのも悪くないとも思います。
つまり、どっちでもいいのです。
 
どうしてもなくては困るものなどない  これが、環境によって育まれた、私の物への対し方。
 
さらに言うなら、部屋の片付けも異様に几帳面な母に任せきりでした。
そのおかげで、おそらくいろいろヤバイものも見つかったものの、弟ほどではありませんし、
見つかったら決定的にヤバイ秘密なんて、よっぽどの性癖の持ち主でもなければ、ないものです。
もちろん自分でも片付けはするのですが、母の手にかかるとさらにきれいに整理されるので
(私はウチほどきれいに片付いた家を見たことがありません)、
「自分の部屋は親に絶対に触れさせない」と言う人の気持ちがさっぱりわかりませんでした。

 
かような家に育った私が今回訪ねるのは、かばグッズ収集家のドンです。
 
テレビや写真で見るコレクターの家といえば、例えば、やくみつる。収集の対象が広すぎるのも原因でしょうが、家中が物で溢れていて、集めた物を守るために屋根がついているような感じ。あるいは森永卓郎。オタクはホコリよけのためにガラスケースに入れるタイプが多いようです。
 
母と違って潔癖な方向へはまったくいかなかった私は、
大抵の人が敬遠しそうな散らかり放題の家でもくつろぐことができます。
モノへの執着がない分、主のキャラにしか注意がいかないのかもしれません。
また著者にはそういうタイプの人がけっこうな割合でいるのも事実で、
徹底的に片付けないってのも何かの能力の裏返しなのかなと思うほど。

「ヒポミさんの元には、運び屋や情報屋の協力もあって世界中のカバが一同に集められる。
 ならば、おうちはどんなことになっているのだろう……」 

さあ、いよいよカバたちとのご対面です。
扉を開けてくれたヒポミさんから察するに、上品ファンシー系のディスプレイかな〜

ワクワクでお邪魔したのですが、  ん ?????!!!!!
試しに先にお手洗いをお借りしました。  あれ、あれれ ?!?!?!?!?!

カバはどこ?

案内されたリビングはきれいに片付いていて、物の少なさも含め私の母並みです。
広いトイレにもカバの影はありません。たしかパンダだらけだった徹子(黒柳)のトイレとは大違いです。

よく見ると、リビングの大きな壁に両腕を広げたほどの大きな額があります。
オシャレすぎて、カバだと気づくのにしばしの時を要しました。目についたのはその一点。

そうなんです、ヒポミさんは、カバをまったく飾っていない、かばコレクターだったのです!


バッグチャーム.jpg



新宿ルミネで捕獲したてのバッグ・チャーム 

コレクションにないカバを見つけて、
ヒポミさんに奉納するのを目標としてます。
これはどうかな〜
私のスマートでないフォンで撮った写真だとブタのようだけれど、
体調5cm、カバのエレガントさがよく出ているように思います。

8. 初訪問(その一)


東京でも計画停電の実施が囁かれるなか、震災前に約束した日時に初めてヒポミさん宅を訪れました。

……と書きはじめたはいいものの、さっそく迷うのが、
ヒポミさんの正体をどこまで明かしてよいものなのか。
何しろ、名字のない公人ですから。(1. 2.参照)

ヒポミさんとは、その日までメールだけのやりとりでした。
電話で声も聞いていないので、性別の確信も持てないままです。
ヒポミさんのサイトからいくら類推しようと、ネット情報に真実が記してあるとは限りません。
カバとの日々をこうして私が綴るなかにも、多分にフィクションが混じっていますしね。
(それがもっぱら、記憶力の不備のせいとはいえ  


思えば、記事を目にしたあの日の検索の結果、「ヒポミのかばコレクション」に辿りついたのでした。

〈今日のカバ〉ではカバがデイリーにアップされ、カレンダーを埋めていました。
それが2001年から続いているとなれば、やはりコレクションは三桁どころじゃなさそう。
その日のカバの来歴には、「運び屋」「情報屋」なるワードが並んでいます。
どうやら、カバを愛する者のコミュニティ=カバ界では、頻繁に情報交換がなされている模様です。

〈ギャラリー〉ではカバがカテゴリー別に分けられています。「切手」「コイン」などのコレクターズ・アイテムはもちろん、「絵画」や「クリスタル」(バカラやスワロフスキー)など、何やら高そうなものもチラホラ。同じカバでも姿かたちがまるで違うので、壮観です。

hipomi.gif
 



後日談〕ちなみに、このサイトを見ているとカバが世界中に溢れているような気になりますが、あの日から今日まで、カバに気をつけているつもりの私のカバ遭遇率は、ごくわずか。世には動物アイテムがゴロゴロしているのに、「なぜカバだけいない?!」と舌打ちしたことも、10回や20回では収まりません。だのに、これだけの数のカバを集めるのですから、ヒポミさんとかばネットワーク、恐るべし。



そして初体面のこの日  
ひねくれ者で構成される出版界ではついぞお目にかかれない、美しい笑顔で迎えてくれました。
そう、ヒポミさんは、ステキな女性でありました!

性別だけで長らく引っ張ってしまいましたが、それほどコレクターへの先入観が強かった次第です。

ところが問題は、性別ではありませんでした。

お宅におじゃまして、目が点になるのです。

 「あまりのカバの多さに驚いたのだろう」

そう思ったあなた、想像力が不足しています。
ヒポミさん宅では、きっと私と同じ目に遭う(?)ことでしょう。

何に驚いたのか。つづきは次回!


形状記憶の輪ゴム.jpg


形状記憶の輪ゴム「アニマルラバーバンド」

このギフトボックスには6種類の動物が入ってます。
でも今の私、カバ以外は眼中にありません。
「好きなの取っていいよ〜」と箱ごと編集部内に回すと、
なんと、いちばんの若者がカバを選ぶではありませんか。
「あンたもエラくなったもんね……(怒)カバには100年早い!」
キリンと交換させたのは言うまでもありません。


7.情報の限界

かくして数冊の本を通読しました。

カバのことなら何でもきいて〜というくらい〈にわかカバ博士〉を自称した私ですが、
「じゃあカバはどこで寝るの?」と訊かれて答えに窮する始末。

頭に浮かぶのは、野生のカバは夜行性であることと、動物園のカバが陸で「昼寝」している写真。
キャプションに昼寝とあるのは短時間のシエスタのことじゃなくて、夜に備えて本格的に寝ているのか?!

……付け焼き刃では何事も半端です。
しかも1年半前にインプットした情報は今、すべてがうろ覚え。
記憶が確実に持続するのは25歳までに覚えたこと。寄る年波との格闘の毎日です。

最新科学といえば、カバの「血の汗」ってご存知ですか?
物騒な名前ですが、私はカバがピンクの汗をかくことさえ知りませんでした。
その汗の役割と成分も、2004年に判明したばかり。
(詳しくは、上野動物園の方が本の中で紹介してくれます〜)

とにもかくにも、にわか勉強によって〈長年の観察と一瞬のひらめき+科学の粋〉で書き換えられていく
ウンチクにも限りがあることを知ると、「カバの本」を夢想した当初のチリモン的アプローチは、
早々に断念することになりました。


いよいよヒポミさんの登場です。
ストッケstokkeのテーブルトップTRIPP TRAPPシリーズ.jpg







甥・姪のランチョンマットにカバ発見。
ドイツのstokke(ストッケ)製で、テーブルトップというらしい。
汁物をこぼしても周囲の土手(?)がせき止めるからか、
水辺の動物たちが描かれている。あまり可愛くないけれどカバだから許します。
(成長に合わせて高さが変えられる椅子ともに、TRIPP TRAPPシリーズ)

6.カバ本


なかなかヒポミさんに辿りつきませんが、編集者にはまだやることがあります。
カバの情報収集です。
口では「何も知らないので教えて下さいね」といいながら、
まっさらな状態で会いにいけるほど私、図太くないのです。

では、数少ないカバ本をざっと眺めてみましょう。

「河馬的文明論」.jpg
古い順に、まず西山登志雄河馬的文明論』(1972年、ブロンズ社)

西山登志雄! 日本カバ界でプラチナ級のVery Important Person。
戦後すぐに中学校をボイコットし親に内証で上野動物園で働き出した氏は、
30余年にわたりカバやライオンの飼育係を務めます。
ああ見えて神経質なカバの信頼を得た稀有なお方。VIPのゆえんです。
東武動物公園の初代園長となり「カバ園長」と呼ばれました(06年に他界
した折に「かば園長葬儀式場」と看板を出したのもたぶん遺言)。
厳密には、カバにだけフィーチャーしたわけではないものの、
氏の鷹揚な変人っぷりが筆にも乗った名著です。
登場するカバはデカオにザブコ、オヤジという名のラクダもいます。
このいさぎよいネーミングセンス、昨今の親にも見習ってほしいところ。
神保町の虔十書林で500円


「河馬の方舟」.jpg「日本カバ物語」.jpg
◁ 宮嶋康彦河馬の方舟』(1987年、朝日新聞社)
右は改訂版の『日本カバ物語』。増補文庫版『だからカバの話』もある

フォトジャーナリストの宮嶋氏による「朝日ジャーナル」連載をまとめたもの。日本の動物園のカバがほぼ「重吉&福子」(名古屋東山動物園)の子孫という事実をつきつけ、安易な近親交配を繰り返す動物園の在り方を変えました。本当はもっと変えたい社会派なので、表も裏も知りたい人向き(他『カバ KIBOKO』がある)。それにしても、本場のカバも沢山見た上で日本カバ史を通暁。凄い人です。




カバに会う―日本全国河馬めぐり

カバに会う―日本全国河馬めぐり坪内稔典著(2008年、岩波書店)


  • 社会派の宮嶋氏に対し文系のカバ派といえばカバを求めて日本中の動物園を踏破した、俳人の坪内ネンテンさん。旅しながら文学中のカバに迫ります。ご自分の忌日は芥川の河童忌ならぬ「河馬忌」とするよう、遺言してるに違いありません。
  • 「桜散るあなたも河馬になりなさい」の名句は、「カバのように見る。カバのようにふるまう。カバのように発想する」ことで自分の殻を破りたい、そう願ってみずからに言い聞かせたものだといいます。なんか泣ける……。いちばん私のカバ時間に沿う本かもしれません。ゆっくり売れ続けているというのも納得です。





ここに挙げた本、『カバに会う』以外は残念ながら流通していません。
どれに何が書いてあったのか今となっては記憶が曖昧ですが、味わいは三者三様。どれもおすすめです。





5.カバの時間

眺める者、想像する者の時をユルめるカバ。
実は走ると時速50キロとも60キロとも言われています。

これは、カバの生態を探っているうちに知ったことの一つです。
  などと言うと偉そうですが、知り得たことは、わずかでした。
カバの専門書が実に少ないのです。
それはカバに限らず、およそ野生動物の生態で分かっていることことはたかが知れているから。

なぜ飛行機のような重い物体が空を飛び交ってるのか。
なぜネットは地球の裏までつながってるのか。
詳しい原理を知る気にもならないものに囲まれていると、つい科学を過信してしまいがちです。

でもガリレオの「それでも地球は回っている」(1633年の異端審問)以来の反発があったともいわれる
ダーウィンの「人間の先祖は猿」説、これぞコペルニクス的転回ってわけですが、
その『種の起原』が1859年の刊行ですから、たかだか150年前なのですね。
たとえばアフリカにしか棲息しない動物が相手で、あまりお金に結びつかなさそうとなれば、
そういう分野は地道な観察と想像のくり返ししかなく、150年は十分な時間ではない気がします。

松浦寿輝さんの東大最終講義「時間と近代」によると、
ダーウィンは進化論に想定される反論に対して、あらかじめ再反論を同著のなかで展開しているといいます。
進化(淘汰)の過程の化石=証拠がないではないか、という想定反論に対して用意した答えは、こうです。
人間の想像しうる(一万年程度の)時間をはるかに凌駕する「物理学的時間」からすれば、
地層から見つかるものなどわずかなのだ(証拠がないことは反証にならない)、と。
こうして近代は『種の起原』以降、〈個人の等身大の時間〉に加え〈科学的時間〉を獲得します。
この時間尺度のパラダイムチェンジは、生物学という狭い領域の話にとどまらずに波及してゆきました。

さて、最新の科学は〈科学的時間〉をずんずん遡り、従前の生物学的分類法をご破算にしました。
遺伝子解析によって、カバがクジラと先祖をともにしていたことまで明らかになっています。
以前はブタやイノシシに近いと考えられていました。
見た目からすると脚と蹄(ひづめ)にとらわれて違和感がありますが、動物園で年じゅう水中にいる
のを見慣れていれば、「同じ水生の哺乳類だしね」と、納得も早いのかもしれません。

一方、人の〈等身大の時間〉も簡単に超えられません。
以下の一文を読んで下さい。

   ビッグバンは137億年前に起こった。

今から三日後、あなたは下線の数字をばっちり覚えている自信はありますか? 
数字を目にした瞬間に、脳内で「ずーっと前」と書き換えていませんか?
そうだとしても誰もあなたを責めません。想像が及ばないほどの時間だから仕方ないのです。

で、カバと時間について。
こうなると、時代による、人間の側の違いを考えてみたくなります。
見る者がカバに「泰然」を感じるとき、その感じ方は近代以前と以後で、どう違うのでしょうか。

  けっこう違うのかも、と思うのです。

カバを思う人間に流れる時を、ここでは〈カバ時間〉と呼ばせてもらうと、
〈カバ時間〉がたたえる幽玄っぷりは、150年前より今のほうが増している気がします。
それは時代のせわしさのせいばかりではないはずです。

昔むかし以上の太古の昔、カバとクジラと同根だと知った上で、にもかかわらず、なのです。
「そんな情報ノーサンキュー」とカバの絶対にひたるとき、
近代が殺した神が再降臨するとでもいえばいいでしょうか。

無宗教で、それほどスピリチュアルなタチでもない私が、
古代人がカバに叡智を見たのと近い、神聖かつほんわかした気持ちになるのです。

現代の〈カバ時間〉は、かように最上級クラスの豊かな時間。
このリュクス(贅沢)は、わりと多くの人に実感してもらえるはず。この点ではわたし、かなり楽観的です。



フランスのカード.jpg


"Le cœur a ses raisons que la raison ne connaît point."

には、理性すらも知らない道理がある。
パスカル『パンセ』

フランス土産のカードで女の子が抱きつくコビトカバ。
添えられたパスカルの言葉から察するに、
「だって好きなんだんもん」ってことでしょうか。
カバ好きの中には、このコビトカバを愛の対象から除外する人も。
これも心の道理?! 

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