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5.カバの時間

眺める者、想像する者の時をユルめるカバ。
実は走ると時速50キロとも60キロとも言われています。

これは、カバの生態を探っているうちに知ったことの一つです。
  などと言うと偉そうですが、知り得たことは、わずかでした。
カバの専門書が実に少ないのです。
それはカバに限らず、およそ野生動物の生態で分かっていることことはたかが知れているから。

なぜ飛行機のような重い物体が空を飛び交ってるのか。
なぜネットは地球の裏までつながってるのか。
詳しい原理を知る気にもならないものに囲まれていると、つい科学を過信してしまいがちです。

でもガリレオの「それでも地球は回っている」(1633年の異端審問)以来の反発があったともいわれる
ダーウィンの「人間の先祖は猿」説、これぞコペルニクス的転回ってわけですが、
その『種の起原』が1859年の刊行ですから、たかだか150年前なのですね。
たとえばアフリカにしか棲息しない動物が相手で、あまりお金に結びつかなさそうとなれば、
そういう分野は地道な観察と想像のくり返ししかなく、150年は十分な時間ではない気がします。

松浦寿輝さんの東大最終講義「時間と近代」によると、
ダーウィンは進化論に想定される反論に対して、あらかじめ再反論を同著のなかで展開しているといいます。
進化(淘汰)の過程の化石=証拠がないではないか、という想定反論に対して用意した答えは、こうです。
人間の想像しうる(一万年程度の)時間をはるかに凌駕する「物理学的時間」からすれば、
地層から見つかるものなどわずかなのだ(証拠がないことは反証にならない)、と。
こうして近代は『種の起原』以降、〈個人の等身大の時間〉に加え〈科学的時間〉を獲得します。
この時間尺度のパラダイムチェンジは、生物学という狭い領域の話にとどまらずに波及してゆきました。

さて、最新の科学は〈科学的時間〉をずんずん遡り、従前の生物学的分類法をご破算にしました。
遺伝子解析によって、カバがクジラと先祖をともにしていたことまで明らかになっています。
以前はブタやイノシシに近いと考えられていました。
見た目からすると脚と蹄(ひづめ)にとらわれて違和感がありますが、動物園で年じゅう水中にいる
のを見慣れていれば、「同じ水生の哺乳類だしね」と、納得も早いのかもしれません。

一方、人の〈等身大の時間〉も簡単に超えられません。
以下の一文を読んで下さい。

   ビッグバンは137億年前に起こった。

今から三日後、あなたは下線の数字をばっちり覚えている自信はありますか? 
数字を目にした瞬間に、脳内で「ずーっと前」と書き換えていませんか?
そうだとしても誰もあなたを責めません。想像が及ばないほどの時間だから仕方ないのです。

で、カバと時間について。
こうなると、時代による、人間の側の違いを考えてみたくなります。
見る者がカバに「泰然」を感じるとき、その感じ方は近代以前と以後で、どう違うのでしょうか。

  けっこう違うのかも、と思うのです。

カバを思う人間に流れる時を、ここでは〈カバ時間〉と呼ばせてもらうと、
〈カバ時間〉がたたえる幽玄っぷりは、150年前より今のほうが増している気がします。
それは時代のせわしさのせいばかりではないはずです。

昔むかし以上の太古の昔、カバとクジラと同根だと知った上で、にもかかわらず、なのです。
「そんな情報ノーサンキュー」とカバの絶対にひたるとき、
近代が殺した神が再降臨するとでもいえばいいでしょうか。

無宗教で、それほどスピリチュアルなタチでもない私が、
古代人がカバに叡智を見たのと近い、神聖かつほんわかした気持ちになるのです。

現代の〈カバ時間〉は、かように最上級クラスの豊かな時間。
このリュクス(贅沢)は、わりと多くの人に実感してもらえるはず。この点ではわたし、かなり楽観的です。



フランスのカード.jpg


"Le cœur a ses raisons que la raison ne connaît point."

には、理性すらも知らない道理がある。
パスカル『パンセ』

フランス土産のカードで女の子が抱きつくコビトカバ。
添えられたパスカルの言葉から察するに、
「だって好きなんだんもん」ってことでしょうか。
カバ好きの中には、このコビトカバを愛の対象から除外する人も。
これも心の道理?! 

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